さて緊張の社長との面接の日がやって来ました。オフィスに居た社長さんは、背の低い中年男性でしたが、ロン毛を後ろで結き、ファッションもいわゆる業界風な男性でした。が、超美人副社長があくまでお上品なスノッブさんであるのと対照的に、社長さんはニコニコした気さくな人で、でもヘラヘラしてるのではなく、切れ者だなぁ〜と感じさせる所がありました。
そして早速私の作品集を見せる段に。以前にやったキャラクターグッズや玩具のデザイン仕事も社長さんには非常に興味深く写
ったようで(イタリアではそのような仕事が殆どないからでしょう)、私はたくさんの質問を受けました。そして平凡?なカタログや冊子の仕事、得意なパッケージやCIの作品紹介まで進むと、社長さんは『なんちゃって広告代理店』の人達と同じ事を私に聞きました。「本当にコレ全部、キミの作品なのかい?」と。
『なんちゃって…』の時とは違って、「一緒に働いて試してみないとねぇ〜。」などと言う失礼な事は言いませんでしたが、素晴らしいと思われる広告代理店の社長さんにもこう言われたので、私はその問いには答えず、こちらから質問をしてみました。「何回か面
接で同じ事を言われたんですが、どうしてそんな事を聞くのですか? 話を聞くと他人の作品を自分の物と偽って面 接に持って来る人がいるらしいですが、それは本当なんですか?」そして社長さんは「そう。結構ね〜、多いんだよ。そういう人が。」と。でも私は「そうですか…。信じられないですよね、だって他人の作品を見せて採用になっても働けばボロが出るに決まっているのに。やはり皆、仕事を取りあえず掴むのに必死なのだからでしょうか。でも私はそんな事は出来ません。私は単なる一デザイナーに過ぎませんが、人の作品を自分の物だと言うような、最も恥ずかしい行為は何があっても出来ません。」と、答えました。
そして私は作った3枚のポスターを差し出し「この代理店は素晴らしいお仕事をなさっていらっしゃると、前回作品を拝見した時に思いました。今までお見せした私の作品は分野的に偏っておりますし、この会社のイメージとは違う物ばかりでしたので、この面
接の為に急遽、架空のイベントを想定して3枚のポスターを作りました。私はこういう雰囲気も出せると分かっていただければと思いまして…。」と、見せると、社長さんの顔色が急に変わりました。仕事作品の時は良い反応だと分かりましたが、その時の表情の変化は、それが良いのか悪いのか、こちらも判断出来ないような感じ…。私は内心「あ、やばい。やっぱ付け焼き刃のMacなんかで作ったのがいけなかったかしら。もっと修行しておけば良かった…」と心配になった程でした。
が、その後社長さんが言った言葉は、私を天国へと運んでいく物だったのです(笑)。やはり先ず「ホントに、ほんと〜〜うに、この面
接の為に作ったの?」私は「はい。」「じゃコレはどこにも出ていないんだね?」「はい。」そして社長さん、副社長を呼び「見てくれよ、コレ。アキがこの面
接に作った物なんだけど、いいだろ? 特にコレは今話が入って来てる○○のイベントに使えると思わないかい? よし、コレでいこう!!」と、私は即刻採用になってしまったのでした。
私は「わ〜〜い!わ〜〜い!!ウレシイ〜〜〜〜♪ 良かったよぉ、Macで必死に作って。」と感動し、そしてデザインなど諦めなくてはならないかと思ったこのナポリで、こんなにステキな仕事をしている会社から評価された事に、心から喜びました。そして社長は、私をオフィスに迎え入れたいようでしたが、私はすでに市外に住んでいましたし、ナポリのチェントロならまだしもヴォーメロへは通
勤時間もかかります。電車、地下鉄、フニコラーレ…と3つの手段を使って、それにそれぞれ遅れもあるし…という事で、先ずは様子見で、フリーとして働く事にさせていただきました。(私がヴォーメロに住んでいた時なら通
勤時間徒歩5分だったのに〜と悔やんだのですが(^.^;)
そして先ずは架空のイベントを想定して作ったポスターの、本番切り替え作業に。もちろんその時は、イベント内容を把握し、かなりの修正をして、ポスターとチラシを同じように。その他にも雑誌広告や、店舗のノベルティー、小さな商品のパッケージなどを数点担当させていただきました。そしてそれらが評価され、ついに?大がかりな仕事の依頼を受けるようになりました。
それは中堅企業のCIです。CIというのは『コーポレート・アイデンティティ』の略で、簡単に説明すると会社の場合ならロゴ、マークから始まり、名刺、レターヘッド、封筒、会社案内…等々、その会社をイメージさせる物を全て作るという事です。
私は10代の頃に他の仕事をしていましたが、それに挫折して(笑)「他の仕事を探そう」と思っていた矢先に、ひょんな事からデザインに毛の生えた仕事をする事になりました。デザイン学校も美大も行っていませんが、働く中で仕事を覚え、『毛の生えた』ではなく『本格的にデザインがやりたい!』と思った時に、東京のある広告代理店の社長さんに「私にもデザインを何かさせてください。」と頼んでみて、始めて受けたのが、小さなパソコンベンチャー会社のロゴデザインでした。その時は全てをデザインするCIなんかではなく、ロゴとマークと名刺だけ…でしたが、私のデザイン人生(大袈裟:笑)は、ロゴデザインから始まったので、以後も同じような仕事には気合いが入り、本当に仕事という感覚を忘れ、楽しんで?取り組む事が出来ました。
各種中小企業のCI、レストランや喫茶店などのCIもたくさんやりました。飲食店の場合は本当に楽しかった!! ロゴ、マーク、メニュー、お皿、看板…などなどなんでもやるのですから! 赤坂のイタメシ屋(笑)とかフレンチレストランなど自分が行くお店の仕事もあって気合いが入りましたし、オリジナルコーヒーを売るステキな喫茶店の総合CIをコンペで勝ち取った時は嬉しかったです。銀座のクラブ(←ダンスする所ではない:笑)からの仕事もあり、現場調査などと言ってタダ酒を飲ませてもらったり(^.^;。そしてCIというのはデザインをなかなか変えないですから、今でも日本に帰ると、自分の仕事が残っている事もあり、当時を思い出すのは非常に懐かしく、嬉しいです。
(あ、脱線したので、話を戻して(^.^;)、そんなロゴデザインからデザインの仕事を本格的に始めた私、ついにイタリア、ナポリでもそんな仕事を受けるようになりました。内容は中堅企業と言えど、その業界ではイタリア中でも名の通
ってる会社とか。でもその『業界』というのが凄かった。歯の治療用品販売の会社だったのです(笑)。創立当時から使っているロゴマークは古く臭いし、会社案内の中の商品説明も口内のグロテスクな写
真が多様されているのでキモチワルイ(笑)。お客さんの要望は、ロゴマークはすっきりシンプルに。そしてそれに準ずる名刺や封筒、レターヘッドもそのように。そして50ページにも及ぶ会社案内は、グロな写
真を排除して全てイラストにする事…などでした。
堅い会社のCIなどはせいぜいパソコン業者などしかやった事はなく、歯治療用品なんてビックリしましたが、仕事の内容に変わりはありません。もちろん私はOKを出し、この話がゴーになったら、しばらくして私はその広告代理店のオフィスに移り、通
勤時間が結構かかってもやはり毎日顔を付き合わせるのはお互いに良い事ですから、本格的にその代理店のブレーンの一人として働くように…と話が出て私も納得しました。でも…その仕事を始める前に様々な事が起こってしまったのです。06/07/00