その『広告代理店』は、ナポリの丘の町:ヴォーメロにありました。以前私が女性共同で暮らしていた地帯です。それにヴォーメロの中心、ヴァンビテッリ広場のすぐ近くで、オフィス的にロケーションは最高でした。しかし私はまだまだ『なんちゃって広告代理店』の念から離れる事は出来ませんでした。「場所がいいからって、どんなもんかわかんないわ〜。」と。
そしてそのオフィスの目の前に来て表札を見る。広告代理店と言うならば、自社のロゴも美しくなくてはなりません。ラテン語の会社名で、ロゴのデザインもかなり独特な物でした。私は内心「お??」と、思いましたが、ブザーを押して事務員の女の子に応対され、社長室に通
されるまでの間に見たオフィス風景は、『なんちゃって…』には見えませんでしたが、あまりオシャレではなく、小さいし「やっぱこんなもんかぁ〜」などと思っていました。
ごく普通の社長室で期待薄で待っていましたが、ドアを開けて入って来た人物に私は「うお!!!!」と思ってしまいました。それは何故か…女性だったからです。いや、女性だから「うお!!」ではなく、私がイタリアで見てきた中でも一番美しい女性だったから「うお!!」だったのです(笑)。
南イタリア女の象徴である、長く黒い髪と褐色の肌。そして顔は、これまた南を象徴するような謎めいたセクシーさの魅力で、深く、どこまでもクッキリした顔立ち。そしてボディーも痩せてるのに、メリハリが超利いているカラダ!! そしてファッションも上品でありながら女性らしいセクシーさが炸裂したような感じ!!(←どんな感じよ?(^.^;)…とにかく私は超売れっ子女優を目の前にしたような感覚に陥り、しばし無言になって、彼女に見とれていました(笑)。
でもそれはお仕事の面接でした。見とれているばかりではいけません(笑)。先ずは簡単にお互い自己紹介をし、彼女が副社長である事を知りました。そして早速、私の作品集を見せる事に。昔からの作品集は捨ててしまったので、近年やっていた仕事だけの簡単な物でしたが、私はその一つ一つを説明していきました。
イタリアで始めて面接というのを体験したミラノでは、説明するのもカチンコチンに固まっていたのに、慣れというのは恐ろしい物です(笑)。まぁミラノでは社長室が豪華マホガニーの家具で統一され、重厚感溢れすぎるゴージャスな感じだったからかもしれませんが(笑)、その時は全然緊張もなく、副社長のあまりの美しさに度肝を抜かれながらも難なく説明をしていきました。そしてまだ『なんちゃって…』感があった私は、説明しながらも、心の中で「え?どう?切り張りじゃないんだよ〜。ナポリでこんな仕事するヤツいるかいな??」と偉そうに思っていました。
そして美人副社長は私の作品にはコメントを付けず「では私どものお仕事を見ていただきましょうね。」と言って秘書に資料を集めさせている最中も私は「ま、期待しないで見ますわい、ははは。」と内心思い、椅子にふんぞり返って待っていました。ああ、なんてイヤなヤツなんでしょう、私ってば(笑)。
が、そんな私の奢りの態度は、美人副社長が何気なく広げたポスターで一気に消え去りました。「コレは○○のイベント用のポスターで…」と先ず広げられた物を見て、ふんぞり返っていた私はいきなり立ち上がり、言葉を失う程の衝撃を受けました。単なるイベント用のポスターではなく、アーティスト作品のように素晴らしかったからです。そしてそれから続々と見せられる作品郡も、同じようなレベルの物ばかりでした。そして一番感動したのは、私が大好きで専門にしているCIやパッケージデザインなどもやっている会社で、それらも見事に素晴らしい出来でした。
私は頭がクラクラになりながらも、美人副社長に「コレは一体どんなデザイナーの方がおやりになったのですか?」「アレは印刷も非常にキレイですが、どの印刷会社に?」などと矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、完璧に『逆面
接』状態にまでなりました(笑)。そして気の済むまで質問をし、最後に私は思いました…「やばい。これらの作品に比べたら、私の作品などは『おこちゃま』レベルだ!!!!」と。
「どうせ『なんちゃって…』じゃないの?」と、ふんぞり返った頂点の奢りはどこへやら、急に借りてきた猫のように縮こまってしまった私でしたが(笑)、美人副社長はどこまでも美しい微笑みと共に「今度社長が居る時に来てください。そしてビジネスの話をしてくださいね!」と。しゅ〜〜〜〜んといきなり針を刺された風船のようにしぼんでしまった私でしたが、その言葉を聞いて「お!!多少は気に入って貰えたのかいな???」と胸をなで下ろしました。
『田舎』だと決めつけていたナポリ。そんな所では真っ当なデザインの仕事なんかないだろう…とミラノ人達から聞いた言葉を鵜呑みにして、実際に自分が面
接に行っても『なんちゃって…』しかなかった。そして私は奢りの固まりになってしまったのですが、「ま、なんとかやってみよう」と思った時に出会ったこの広告代理店。仕事内容は、ミラノの雑誌社より素晴らしい物ばかりでした。それになんと言っても、ページ物だけではなく、私の大好きなパッケージやCIなどの仕事が多いと分かり、是が非でもここで仕事をしたいと思ったのです。始めは「まぁ仕事があればやるわよ〜」なんて言ってるイヤなヤツだった私でしたが、こんな、私には最適な職場に出会い、働きながらも学ぶ事がたくさんありそうな、絶好のチャンスを逃したくないと思いました。
約束した社長との本格的な面接はその2日後でした。今までやってきた仕事の作品 集だけでは、とうていその会社のレベルには追いつけないと思ったので、2日の猶予の中、必死に3枚の架空のイベントのポスターを作成しました。ようやく仕事人として使えるようになったMacを駆使し、イラストも描き、雰囲気を全て変えた3枚のポスター。それを持って私は再び、その会社のブザーを押したのです。05/07/00