ある男性は、大学の時からナポリ中央駅を通
学に利用。そして当時、ナポリ一番の会計士事務所に働いていた市外に住む彼は、やはり同じくナポリ中央駅を使って通 勤をしていました。毎日通る地下鉄から国鉄に乗り換えする通路に、半年前から出来た私設観光事務所に、彼は全く興味も示さなかったのですが、ある日突然、『サッカーのチケットここで売ってます』のポスターを見て、彼は「なんだ! スタジアムの近くまで行かなくてもこんな所で買えるのか?」と、事務所の扉を開けました。
その彼は、熱狂的なナポリファン。イタリア人はサッカー好きと言われていますが、その中でも類い希なる程のファンです。そんな彼、サッカーチームのナポリを応援しにスタジアムに行くのは当たり前。そして普通
なら年間で利用できるパスを買っています。子供の頃は親にたまに連れられてスタジアムに行くだけでしたが、16歳から、彼は自分のお小遣いで、その年間パスを買い、必ずナポリで試合があると有無を言わせず駆けつけていました。が、ある年にナポリがあまりにもふがいない成績を残し、熱狂的に応援を続けていた彼も「来期は年間パスなんか買って応援に行ってやるものか!!」と思い、シーズン前にしか買えない年間パスを拒絶。でも、やっぱりサッカー大好き、しかもやっぱり、どんなにふがいなチームでも、応援したい!!との気持ちが以後ふつふつとわき上がり、結局そのシーズンも、パスは買わずに一回一回チケットを買ったのですが、全試合制覇して見てしまったとか(笑)。
彼が事務所のポスターを見た時は、まさにそのシーズンの真っ最中でした。普段はパスを買うから問題は全くないけど、その年は、一回一回チケットを買わねばならなかった。重要な試合になると、試合前では遅すぎる。前々からチケット求めてスタジアム周辺のチケット屋に奔走していたと言います。そんな所へ『売ってます』のポスター。しかも自分が毎日通
勤で通う所。「こりゃ幸い!!」と、彼は事務所に入って来た訳です。
「すみません!今度のナポリのチケット、ありますか?」それに応対したのは、もちろん私。「はいはい、どこの席がいいんですか?」そして希望の席を聞き、チケットを切り、お勘定。「いや〜、毎日通
ってるのに全然気が付きませんでしたよ。ここは、観光事務所? しかも旅行代理店でもあるんですか?」と言う彼に私は「そうですよ、何かご旅行の予定がありましたら、どうぞこちらで。」とお愛想を言い、そこで彼は去りました。
しかし彼は翌日にもやって来ました。私と副社長がいる事務所に「あの〜、中国に行きたいんですが、パンフレットがあればください。」と。そしてパンフレットを貰い、その日はそれだけで帰りました。が、またその翌日にもやって来て、今度は事務所に私だけ。始めは旅行の話や近隣の欧州までの航空チケットの値段などを聞いて来ましたが、その内に「ねぇ、キミは中国人なの? 日本人なの?」と聞いてきました。私は「日本人ですけど…。」と無愛想に答えると、「ここの事務所の人の誰かの恋人なのかな?」「いえ、別
に…。」「ナポリにはどの位いるの? 色々回った? なんなら僕が色々案内してあげてもいいけど。」私は(…また始まったかい。)と思い、うんざりの顔に。「ありがとうございます。その内に機会があれば。」と、お茶を濁す答えしかしませんでした。
そしてそこへ、社長と副社長が戻って来て、「なんだ、キミ。また来たの?」と。そしてその彼は「はい。中国に行きたいなんてウソだったんですけど。」とハッキリ白状(笑)。副社長が「どうせアキ目当てなんだろ?」と笑うと、「まぁそれはそれですが…。」と照れながら、彼はもう一つの話を切り出しました。「ここは観光事務所ですよね? しかもチケットも売ってるし、それに旅行代理店業務も。一体どうしてそんなにたくさんの業務が出来るのですか? 僕は会計士ですが、旅行が大好きで、出来れば旅行代理店をやってみたいと思っていますが、そうそう簡単に出来る事ではないと思うんですが。」と。
こんな話をいきなり聞くのもスゴイですが、その質問に社長は真面目に答えていました。見ず知らずの人間でも、ちゃんと聞かれたら、下手に警戒せず、自分がどうやったか説明を始める。それが例えこんなビジネスの話であってもです。こういうフランクな点も私が大好きなナポリ人の気質の一面
です。そして彼は社長の説明を聞き、その日は帰って行きましたが、それから毎日事務所にやって来て、私にアプローチをかけながらも(笑)、社長にもっと詳しく話を聞いて、社長も彼が真面
目である…と理解したのか、ついにはその彼が自分の住む市外の町に、その事務所の旅行代理店業務の支店を出す事に決まってしまったのです!!
そして彼が毎日事務所に通う中、ついに彼とお出かけをする事に。しかし真面 目な彼は先ず「ランチを一緒にしよう」と、彼の会計士事務所の近所のピザ屋さんで食事をし、その後、事務所まで連れて行って自分がどんな仕事をしているか、見せてくれました。そして次のお出かけは夜でしたが、彼の家。家族全員に紹介され(友達としてですが)、楽しくマンマの夕食を一緒にいただきました。私は外国人で一人暮らし、男性にもかなり警戒をしているだろうと感じていた彼は、先ず自分の仕事と家族を私に見せる事で、安心させてあげようという計らいだったようです。次はクラブなどにも遊びに行きましたが、友達と一緒で、彼は紳士的に一切手を出したりはして来ませんでした。でもお出かけも5-6回続いた時に「良かったらお付き合いを…」と言われました。そして私は「…はい。」と答えました。
私の相手を家族的にチェックしてくれる(笑)副社長も「まぁアイツなら良かろう。」というお墨付きをもらっていたし、社長も、他のスタッフも私と彼のお付き合いを喜んでくれました。前に社長に言われた言葉:「でもさ、アキ。本当に大丈夫だよ。アキが待っていれば絶対にいい男に巡り会える。それにさ、ウチの事務所、ナポリ人相手の旅行代理店業務も始めるだろ。そうすると、いろんなナポリ人がやって来る。その中でアキは、素晴らしい出会いがあるかもしれないよ。」を思い出し、その素晴らしい出会いって彼との事だったのかしら??と思うようになりました。
でもラブラブ気分ばかりではありませんでした。彼は急遽決まった支店出店準備にも大わらわ。共同経営者を探し、オフィスの場所も探し、設立の為の数多くの準備が山のように…。私も『近日オープン!』などの巨大ポスターを作成したり、出来る事は何でも手伝いました。が、私は年末に日本に帰る予定が。
『母親と今度のお正月だけは一緒に過ごす。もしかして当分の間はお正月を日本で…なんてないかもしれないから』と決めていたので、彼がその年は新年をマドリッドで過ごすから一緒に行こう!と言われたのに、残念ながら断って、私は東京へ12月25日に戻りました。その前に彼の実家でクリスマスイヴを過ごさせていただき、本当ならプレゼントを開けるのは、25日のお昼という伝統があったのに、私は25日に出発するから…という事で、特別
にイヴの夜、深夜零時25日になったばかりの時にプレゼントを公開する事になり、私も彼や家族から沢山のプレゼントをいただいて、翌日、ようやく巡り会ったアモーレからしばしの別
れをする悲しみと共に東京へ向かったのです。03/06/00