降って沸いたミラノでの初仕事。しかも自分のキャリアが活かせる雑誌社でのデザイナーとしての仕事。ナポリに行きたい、住みたい気持ちは募っていたけれど、イタリアでの仕事の経験を持つ為に面接の翌日から出勤する事になりました。
会社の体制は、クリエイターの方々は正午までに出勤すればいいと言うフレックスタイム。働き者が少ないと言われるイタリアですが、雑誌社という時間に追われる仕事場では、皆が忙しく働いていました。土日は休み…となってはいますが、休日出勤も当たり前。もちろん残業も…。(しかし日本の雑誌社と比べては、やはりかなりラクな仕事体制ではあったと思います:笑)
デザインの仕事を始めて外国でやる…始めの頃は緊張の連続でした。何しろ専門用語をイタリア語で一から覚えなくてはいけない。『ペリーコラ』と言われても、皆目見当もつかない…。実は『フィルム』の事だったとか。笑い話としては「アキ、そこの『ディスケット』取ってくれる?」と言われ、私は『ビスケット』と聞き間違えて、「イタリア人は朝っぱら仕事中にお菓子なんか食べるのか?」と必死にビスケットを探していると、「なんだよ、ここにあるじゃないか!」と目の前にあったフロッピーディスクを指されました小さい円盤状の物をイタリア語では『ディスケット』と言い、フロッピーの俗称もそうだったのです。「あ、すみません。私、ビスケットと聞き間違えていて、皆さん朝食がわりにする物かと思ってました、たはは。」と弁解し、社内中が爆笑の渦に巻き込まれてしまった事などもありました(笑)。
しかし、言葉の問題を除けば、仕事の流れは全く日本と同じ。当たり前の事ではありますが、身をもってそれを体験して、外国での仕事にも不安はなく、やる気満々で臨む事が出来るようになりました。
デザインの他にも私は仕事を任されていました。それは日本語からイタリア語での翻訳です。こちらの仕事の方が戸惑いは大きかったと思います。まだまだイタリア語が完璧ではないのに、イタリア語に書き換えないといけない。しかも原文の日本語が、昭和初期に書かれた物で、まるで古文のような状態(笑)!! 日本にFAXを送ってまずは原文を現代日本語に直してもらったりもしました。
デザインの仕事は社内で、翻訳の仕事は家で…そんな多忙な日々が続きましたが、初めてのイタリアでの仕事とあって、時間がたつのを忘れる位熱中して働いていました。同僚や上司の働きぶりも勉強になりました。しかも社長さんも非常に魅力的な人間でした。面接での印象は、怖そうなインテリタイプ…と思っていましたが、自分がどのような夢を持って雑誌社を作ったかお話してくれ、仕事もお金の為…というのではなく、新しい企画をご自分でもバンバン出し、自分の興味のある物を中心にやっておられました。そんな経営者の元ですので、他の社員一同も魅力的な人材だったのは言うまでもありません。そんな会社に働く事が出来た自分を誇らしく思い、私も自分の興味のある事は、デザインや翻訳だけでなく、やり始めるようになっていきました。
そんな時、ナポリに行く電車の中で知り合った女性:ロサリアが自宅に電話をしてきました。「アキ!誰だかわかる? 私よ、ほら、電車の中で会ったロサリア! 実は今ね、ミラノに来てるのよ! 時間があったら会いましょう!」と、言われ、私はその翌日に彼女とミラノで再会しました。
「仕事が見つかったなんてスゴイじゃない! アキはナポリに来たかったみたいだけど、そんないい仕事が見つかったのなら、当分それをやった方がいいわね。」と彼女が言うので私も「うん。ナポリに住みたい気持ちはあるけど、でも、やっぱりこの仕事をやってみようと思って。ナポリは近いからいつでも行けるしね。」と答えました。
…その時は確か12月始め頃だったと思います。そんな訳で彼女が次に発した言葉は「そうね、ナポリは近いから…あ!そうだ! もうすぐクリスマスじゃない! アキはもう何か予定してるの?」という物でした。私は「う〜ん、特にないなぁ。ミラノの友人達と過ごすか、アンコーナの友人の所に行くかってところ。」と言うと、ロサリアは「じゃ、ナポリに来なさいよ! 私が招待するわ。私の家はソレントだけど、家にちゃんとベッドを用意して歓待するわよ〜〜! ねぇねぇ来る? 一緒に楽しくクリスマスを過ごしましょうよ!!」と誘ってくれたのです。そんな嬉しいお誘い、願ってもない事です。私は「行く!絶対行くぅ!!」と即答していました(笑)。
それからロサリアがミラノに居る数日間、仕事の終わる夕方から夜、毎日一緒にお出かけしました。ナポリ人でミラノ在住の、ロサリアの友人ご夫婦とも一緒に過ごし、ミラノでナポリの雰囲気を楽しみました(笑)。そしてロサリアが翌朝帰る…という夜に「ナポリのクリスマスは本当に楽しいわよ!待ってるから、絶対に来てね!」「何が起こっても絶対に行く!!」という言葉を交わして、しばしのお別れとなりました。
それから又私は、仕事仕事…。ナポリでのクリスマスを夢見て(笑)。そして私は12月24日:クリスマスイヴに再びナポリへと向かったのでした。年明けまでに仕上げなくてはいけなかった翻訳の仕事を持ちながら…(笑)。